.どうして、野球とソフトボールが、オリンピックから外されてしまったの?
質問者:「ミッキー・ボールさん /14歳」

.ヨーロッパとアメリカの都合に左右された両競技。ただ、ながめていた日本の野球界

文・渡辺功

◆スリム化を目指す五輪。世界的な人気に欠ける野球とソフトボール

 今年7月、国際オリンピック委員会(IOC)総会は、2012年ロンドン五輪で、野球とソフトボールを実施しないことを決定した。日本にとっては、メダル獲得の可能性が高く、人気の競技なだけに、この決定に驚いた人も多かったかもしれない。五輪の競技が減るのは、1936年のベルリン五輪を最後に、「ポロ」が行なわれなくなって以来のことだ。
 近年、五輪の競技や種目は増え続けた。昨年のアテネ大会は28競技301種目。参加選手は、11,099人にのぼった。五輪が大きくなり過ぎて、世界でも限られた大規模な都市でしか、大会が開催できない、との批判があがり始めていたんだ。五輪のスリム化を訴えるIOCのロゲ会長は、夏の五輪について「28競技(スポーツ)、301種目(ゲーム)、選手は1万500人」と上限に定めた。今回の「競技減らし」は、この方針の一環なのだ。 
 では、なぜ、野球とソフトボールが「減らされる競技」に選ばれたのだろうか。
 Q36で説明したように、欧州やアフリカでは、野球人気は低く、野球をやっている競技者も少なく、技術レベルもかなり低い。アテネ五輪では、入場券が半分近く売れ残り、五輪のためにわざわざ建設した野球場も、大会後の使い途はなく、とり壊されるそうだ。不人気、そして球場建設費の負担。こういった理由から、欧州出身者が多数を占めるIOC委員たちは、野球の除外を決めた。ソフトボールについては、野球の女性版だと考えられて、一緒に廃止されてしまった。

◆五輪では、得をしないMLB

 さらに、五輪の野球に人気が集まらない理由のひとつとして、メジャーリーガーの不参加があげられる。これもQ36で話したけど、メジャーリーグ機構(MLB)は、選手の五輪出場を拒んできた。MLBは、五輪に参加しても「得することがない」と考えているんだ。
 たとえば、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)は、リーグのスーパースターを集めた「ドリームチーム」を五輪に派遣して、世界中にNBAの魅力を宣伝した。それによって、世界中の有力選手をNBAに集めると同時に、NBAの市場を全世界に広げて、試合の放映権料やビデオの売上げを大幅に拡大した。
 ところが、MLBはすでに野球人気の高い国々から人材を集めているうえ、市場の拡大にも成功している。メジャーリーグのテレビ中継も、既に200ヶ国以上で行なわれている。だから、わざわざ五輪に参加して、宣伝する必要がないんだ。
 さらにMLBは、来年3月、独自の国別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック」を開催することにした。野球版W杯とも言われている大会だが、出場するのは、MLBに選手を送り込んでいる国だけ。MLBは野球のマーケットを、あくまでアメリカ中心に、アメリカの都合の良いように、世界へ広げようとしている。欧州の影響力が強い五輪は、必ずしもアメリカの思い通りにならない。アメリカは、五輪に野球が必要だとは、思っていなかったんだ。

◆時代の変化に、取り残された日本野球界

 そもそも、野球をオリンピックの正式競技にしようと働きかけたのは、日本のアマチュア野球界だった。アジア・アフリカ諸国に野球用具をプレゼントしたり、コーチを派遣したりして世界に野球を広めていった。その甲斐もあって、1984年のロサンゼルス大会で、初めて野球は公開競技となり、92年のバルセロナ大会からは、正式競技になった。
 ちょうどこの頃、世界のあらゆるスポーツ界で「プロ化」が進行した。選手はスポンサーと契約。国際大会でメダルを獲得すれば、莫大な報酬を手にするようになった。かつて「アマチュア・スポーツの祭典」と呼ばれた五輪も、「世界最高レベルの選手の祭典」「プロの頂点の大会」を目指すようになったんだ。
 スポーツ界から、プロとアマの垣根がなくなるなか、アマチュアにこだわった日本の野球界は、国際舞台での活動力を失っていった。プロの野球界も、五輪の予選や本番に一部の選手を貸し出すだけ。野球を五輪に存続させるための努力を、なにもしてこなかったんだ。
 日本の野球界は、プロ、社会人、大学、高校のそれぞれ別の組織が、バラバラに活動してきたんだ。子どもたちの組織はもっと乱立している。これでは、国際的な話し合いの場で、日本野球界全体の一致した意見を出したり、交渉を進めたりしようにも、上手くいくわけがないよね。
 まずは「日本野球協会」のような統一の組織をつくること。そのうえで、日本、そして世界各国で、この先、野球が愛されるスポーツとして広まるには、どうすれば良いのかを考え、実行しなくてはならない。
 もし、それができなければ、アメリカだけが野球の中心になって、人材や利益のすべてを、アメリカに吸い上げられてしまうだろう。日本で、野球を楽しめるのは衛星放送でのメジャーリーグ中継だけ…。将来、そんな不幸な日が訪れないよう、日本の野球界は、一日も早く改革に取り組んでほしいものだ。

参考文献「帝国化するメジャーリーグ」(谷口輝世子/明石書店)

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