テレビでアメリカのメジャーリーグの試合を見たのですが、日本と違って試合中観客がとても静かでびっくりしました。日本だと応援がすごいのに、これはなんでですか?
質問者:「えりさん /16歳」

.アメリカの観客は静かじゃないですよ。野球の歴史によって日本と応援の仕方が違っているだけ。

◆ビジターチームへの声援がほとんどないアメリカの球場

 質問してくれたえりさんは、きっとビジターチームが攻撃しているときの映像をテレビで見たんじゃないかな。
 日本の野球場では、一塁側にホーム、三塁側にビジターのファンがいて、それぞれの私設応援団の人たちを中心に、トランペットやメガホンをたたいたりして、試合中ずっと大きな音が鳴ってるよね。
 でも、アメリカのメジャーリーグは、フランチャイズ制度(地域に密着したチームの制度)が発達しているから、球場にはほとんどホームチームのファンしかいないんだ。だから、ホームチームの選手の活躍には大きな歓声があがるけれど、ビジターの選手がいくら活躍しても球場はしーんと静まりかえっていることが多い。たとえば、田口壮選手が所属するセントルイス・カージナルスのホーム、ブッシュスタジアムでは観客のほとんど全てがカージナルスのファンで、メッツの松井稼頭央選手がホームランを打ったとしても、歓声があがることはない。もちろん、田口選手が活躍したら、大歓声だ。
 さらに、アメリカの声援には、トランペットを鳴らしたり、メガホンをたたいたりすることはない。ほとんどの場合、一人一人の声や拍手だけ。だけど、その声援の大きさは、日本の応援団に負けないほどだ。ホームチームの選手が大活躍すると、観客の歓声や拍手でテレビ中継するアナウンサーの声が聞こえないほどになったり、喜びで足踏みしたり飛び跳ねたりするから、球場全体が地震のように揺れることもあるくらいだ。

◆スポーツをする人と見る人が分かれることで生まれた応援団

 でも、どうして日本とアメリカの野球場での応援にこんな違いが生まれたんだろう。
 この違いの理由を、日本人は集団行動したがるから、という人がいるんだけれど、それは違う。
 以前、両国国技館で相撲の世界選手権があったとき、日本人はみんなバラバラに座って、大相撲のときと同じように、ひとりひとりが大声で力士の名前を叫んだり、「がんばれー!」と声を張りあげていた。けれど、一方で、アメリカやカナダやヨーロッパの国々の人たちは、集団にまとまって席に座り、「ユー・エス・エー! ユー・エス・エー!」といった具合に、みんなでそろって応援していた。つまり、国技館と野球場では、日本人やアメリカ人の応援の仕方は正反対になっているわけだ。
 応援の仕方というものは、日本やアメリカといったそれぞれの国のスポーツの歴史に関係しているんだ。
 日本の相撲は、明治時代になって相撲協会ができたり、決まり手やルールが整えられたけれど、相撲自体はもっと以前から日本各地で親しまれてきたものだった。実は、明治時代以前の相撲では、相撲を見物している人も飛び入り参加できた。誰もが参加できたから、見ている一人一人が参加している気になって、めいめいで声援したり、やじったりしていたんだ。
 アメリカの野球も、野球場でルールが整えられて行われるようになる前は、広場でやっていて、誰でも飛び入りで参加することができた。メジャーリーグが生まれてからでも、最初のころには、おれに打たせろといって出てくる人もいたぐらいなんだ。
 日本の相撲やアメリカの野球のように、ルールが整えられる以前からの長い歴史のあるところでは、誰もが試合に参加しているという意識を、無意識のうちに持っている。本当は参加できる(飛び入りできる)んだけれど、目の前で競技している人たちのようには上手くプレイできないから、自分は観客席に座ってる。けれど、参加者には違いない。参加者の一人として競技に注目しているから、みんなでまとまって応援しようという気持ちになれない。だから、応援団は生まれてこないわけなんだ。
 ところが、スポーツが、最初からする人と見る人が分かれた状態で発達すると、自分も飛び入りができる(参加できる)という感覚がまったく存在しない。
 たとえば、日本に野球やサッカーといった欧米で生まれたスポーツが輸入されたときには、今の東京大学や慶応大学といった大学や学校を中心に広がって、運動部ができた。そこに所属する人たちは競技をする人、所属しない周りの人たちは見るだけの人で、最初から分かれていたんだ。
 する人と見る人が最初から分かれて発展すると、飛び入りがない。飛び入りがないと、見るだけの人には、どうしても欲求不満が募る。目の前で行われている競技には参加できないけど、自分たちも何かをしたくなる。そこで生まれたのが応援団なんだ。
 だから、アメリカでも、19世紀の終わりに机の上でルールが作られたバスケットボールやアメリカンフットボールは、アメリカの大学で流行して広がり、最初からする人と観る人が分かれてしまった。そこで生まれたのが、チアリーダーというわけなんだ。

◆観客も試合に参加しているアメリカの野球

 アメリカの野球では、観客一人一人が試合に参加している。そのことがよくわかるのは、客席にファウルボールが飛んでくるときだ。
 ファウルボールが飛んでくると、みんなが我先に捕ろうと手を伸ばす。これは、ボールがもらえるから、という以上に、みんなが参加しているからという意識があるからなんだ。
 以前、クリーブランド・インディアンスの本拠地で野球を見たとき、私の目の前に、ファウルフライが飛んできたことがあった。イージー・フライだったから、簡単に捕れると思って手を出した。ところが、ぽろりと落球してしまった。そうしたら、なんと、ものすごいブーイングを浴びせられた。きっと、試合に参加している一人として、「へたくそ!」とブーイングされたんだろうね。
 酔っぱらって選手に汚い言葉を浴びせていた観客が、審判によって退場させられるシーンを見たこともある。これも、観客もゲームの参加者だから、というほかない。
 さらに、ビジター・チームに対する応援はほとんどないといったけれど、例外があって、完全試合やノーヒットノーラン、歴史的記録が達成されそうなときや本当に素晴らしいプレーがあったときには、ホーム、ビジターにかかわらず大きな声援がおくられる。
 今年、イチロー選手が1シーズンの最多安打記録に迫っていたとき、シカゴホワイト・ソックスの本拠地セルラー・フィールドでイチロー選手が5打数5安打を放った。シカゴの観客たちは、最初のころは、敵チームのイチロー選手にブーイングをしていたんだけれど、5本目のヒットのときには、みんなが「スタンディングオベーション」(立ちあがって拍手で讃えること)をイチロー選手におくったんだ。自分の参加している試合を本当に素敵なものにしてくれた、という感謝を表したんだね。
 みんなも機会があったら、ぜひともこのアメリカの野球場ならではの雰囲気を感じて欲しい。ますます野球のことが好きになるはずだ。

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