「近鉄バファローズが、球団の名前を売るとかいう事件がありましたが、いったい、どういうことですか? 名前を売るなんて、できるんですか?」
質問者:「ユウキ君 さん/10さい」

命名権の売買というのは、珍しいことじゃない。でも、チーム名を売るのが、いいのか悪いのか? それを議論する前に、プロ野球の将来をどうするのかを話し合わないといけない。

◆ネーミングライツの売買は、珍しいことではない


スポーツの世界で、名前を売ること自体は、珍しいことじゃないんだ。これをネーミングライツ(命名権)の売却という。でも、これまでの場合、たいていは、スタジアムなどの施設の建設費や維持費を得るため、スタジアムに企業や企業の製品の名前をつける権利を与えることだった。たとえば、グリーンスタジアム神戸がYahoo!BBスタジアムに、東京スタジアムが味の素スタジアムになったよね。そんなネーミングライツの売買が盛んなアメリカでは、イチローの所属するシアトルマリナーズの本拠地セーフコ・フィールドをはじめ(セ−フコというのは生命保険会社の名前なんだ)、メジャーリーグやアメリカンフットボールのプロリーグNFL、プロバスケットボールリーグのNBAの施設など、あわせて50以上の施設の名前が売買されているという。
球団名の売買だと、オリックス・ブルーウエーブの2軍が、サーパス神戸という名前になった例がある(サーパスというのは穴吹工務店のマンション名のこと)。さらに、チーム名の売買とは、少し違うのだけれど、チームのスポンサーになってもらう代わりに、そのスポンサーの名前がチーム名になったことも、何度かあるんだ。たとえば、1973年から1976年の太平洋クラブ・ライオンズ、1977年から1978年のクラウンライター・ライオンズだ。それまでの西鉄ライオンズというチームを、西鉄からひきついだ福岡野球株式会社というところは、お金があまりなかった。そのため、太平洋クラブやクラウンライターにスポンサーになってもらい、球団名に、それらの会社名を使ったんだ。

◆全球団が赤字のパ・リーグ

今回、近鉄が、球団名を売却する計画を立てたのは、バファローズが毎年30億円ともいわれる赤字に苦しんでいるため、といわれている。これほど大きな赤字を出す理由には、色々ある。その中でも、一番大きいのが、日本のプロ野球の構造的な問題だ。実は、バファローズだけでなく、パ・リーグは6球団すべてが、赤字なんだ。去年、日本一になった福岡ダイエーホークスは、ホームゲームのすべてがほぼ満員で、シーズンの観客動員数が300万人を超えている。それなのに、赤字。これでは、ホークスの半分しか観客が入っていないパ・リーグの他球団も、当然赤字になるわけだ。
では、どうして、こんな状況になっているんだろう? それは、セ・リーグが(特にジャイアンツが)全国的に人気を持っていることが、大きな理由として考えられる。ジャイアンツの試合は、日本中にファンがいるから、全国ネットで放送されているよね。全国ネットで放送できて、たくさんの人が観るということは、試合を放送するためにテレビ局が支払う放映権料は、それだけ高くなる。この放映権料はホームチームに支払われるから、ジャイアンツと、ジャイアンツとの試合があるセ・リーグの球団には、高い放映権料が入るわけだ。たとえば広島カープは、観客動員は12球団中最下位だけれど、ジャイアンツ戦の放映権料のおかげで、赤字にはなっていないらしい。一方、パ・リーグの球団は、ジャイアンツ戦も当然ないし、全国ネットで放送しても、観てくれるファンが少ないから放映権料は低くなる。つまり、セ・リーグよりも収入の面で、不利になってしまっているんだ。
 ジャイアンツの影響は、それだけじゃないんだ。お金のあるジャイアンツは、選手に払う年棒も高くなるし、FAになった他球団のスター選手にお金の面でいい条件を出すことができる。そうなると、お金の余裕がない球団も、いい選手を確保するためには、どうしても多くの出費をしなければいけなくなってしまって、経営を苦しくしてしまう。
 さらに、近鉄にとってマイナスなのは、フランチャイズが大阪にあることなんだ。つまり、近くに、阪神タイガースがある。となると、どうしても、関西ではタイガースが注目されて、バファローズの注目度は低くなってしまうよね。
 こんなふうに、収入がふやせず、支出ばかりがふえる状況では、赤字をなくしていくのはすごく難しい。そうなると本当ならば、チーム自体を売るということにつながるんだけど、最近の長い不況で、チームを買うのに何十億も払えるところなんてなかなかない。しかも、<Q31>でも話したけれど、今ある球団を買って、別の球団として加盟するには30億円の加盟料を日本野球機構という組織に納めなければいけない。球団を買うのにかかった費用のうえに、そんなお金をだせるところが、どこにあるだろう。だから、近鉄は売ることもできないので、背に腹は代えられず、球団の名前を売るという方法を考えついたのだろうね。

◆プロ野球の将来の設計図は?

 この近鉄の球団名売却の話が出たとき、テレビや新聞などで、色々な人が「いい」「悪い」を議論していたけれど、どっちが正しいのだろう。
 結論からいえば、いいのか悪いのか判断がつかない、というほかないんだ。近鉄はやむにやまれず、この方法を考えたわけだけれど、プロ野球を将来どうするのかという設計図があれば、そこからはずれているからダメだとか、そこからはずれているけれど、一時的になら問題ない、というように、判断することができる。しかし、現在のプロ野球は、黒字を出している一部球団が「今まで通り」でいることを望み、将来の設計図を考えようとしない。そんな状況で、球団名売却が良いか悪いかを、議論しても意味がないんだ。
 これまで、この連載でも何度か話してきたけれど、スポーツというのは、企業が所有するものから、みんなで支援するものに変わってきている。だから、プロ野球もいずれ、Jリーグのように地域住民と地域の企業も、地方自治体が一緒になってプロ野球チームをふくめたスポーツクラブを支援する体制に変わっていくはずだ。そんな将来にむけて、プロ野球は、どうやって今の問題点を解決し、どう変わっていけばいいんだろう。その設計図がプロ野球界にないのは、とても残念だ。名前を売るのがいいかどうかを話す前に、プロ野球の将来をどうするのかが話し合われないといけないんじゃないかな。

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