今月のクローズアップ
photo 浪速武道館相撲部
種目:相撲
活動場所:浪速武道館
データ


◆小学校1年生から中学三年生まで 卒業後は進路の相談も
 大阪の春は、三月場所に始まる。鮮やかな力士幟が清風にはためき、稽古を終えた力士たちにすれ違う。心がにわかに騒ぎ立ち、主役たちを静かに待つ土俵に思いを馳せる。
 さあ、2006年は、3月12日が初日だ。立合いからわずか数十秒の勝負。力対力、一瞬に賭ける力士たちの舞台は、どんな熱と華で私たちを迎えてくれるだろう。
 浪速武道館相撲部は、公設の施設のクラブであるが、最高峰の土俵を夢み、志す子どもたちの相撲道場でもある。小学1年生から中学3年生までの9年間で相撲の基礎を教え、卒業後は、相撲の名門と名高い高校、大学への進学も支援する。中には、兄弟で奈良県郡山から通う熱心な部員もいるという。
「練習は、夜の6時頃からほぼ毎日。週1回の教室感覚とは違って昔ながらの相撲道場ですから、部員には相撲一色になってもらいます。その代わり、卒業後の進路は、本人の頑張りが報われるように努力します。それくらい本気やないと、こっちも教えてる意味あらへんからね。」  
 朝井英治監督の淡々と話す口調の中に、相撲への真摯な思いが滲む。夢の舞台に立つには、生半可な努力では到底歯が立たない。それを覚悟し、身を預ける部員のために、誰よりも本気で立ち向かわねばならない人物が、監督なのだ。この武道館から数名のプロが誕生したという誇りは、毎日背負う期待と重圧に対して、一縷の助けにもならないかもしれないが、「大切な子どもさんをお預かりしている。」という監督の想いは自ずから言動に表れ、保護者の信頼を得ているのではないだろうか。

◆支えあいながら生まれる かけがえのない絆
 朝井監督は、訪竜という四股名の宮城野部屋元力士だ。平成5年にプロ入りし、平成8年、最高位幕下11枚目にして怪我で現役を引退。自身が相撲を始めるきっかけを与え、育ててくれたこの浪速武道館に戻り、監督を引き継いで10年が経つ。監督業は、全くのボランティア。建築関係に勤め生計を立てる毎日だ。
「食べていかなあかんから、自分も、あの手この手で、何とかやってこれた。でも、武道館に来て子どもたちの顔見たら、ええかっこ抜きで、胸がすっとします。」
 最初は、部員たちの進学先探しに奔走した。
「強い子は、勝手にレールが敷かれていくからええけど、僕の場合、弱い子をどうやって進学させるかなんです。」高校、大学に足を何度も運び、門前払いを受け失敗も繰り返したという。サッカー、野球人気もあり、相撲はただでさえ少数派。苦労は並々ならぬものがあったろう。にもかかわらず「苦労は、もう忘れましたわ。お酒飲んだら思い出すかな。」と、潔くとぼけてくれる。今では、春になれば学校関係者が自ら浪速武道館を訪れるまでになった。
 稽古中、どこからともなく差し入れが届くのも、監督に惚れ込んだ人物が多くいる証拠だ。春休み、夏休みには卒業した先輩が、後輩たちに稽古をつけに来てくれる。監督、先輩、後輩、支援者・・・形はなくとも確かに、かけがえのない絆が存在する。
「例えばここでジュースがあったら、普通やったら飲んでいいよっていえば飲むんですけど、ここの部員たちは違う。先輩が飲むまで飲まない。教えられんでも自然と身についているんですね。ちょっと前も、後輩が絡まれてたら、上級生が走っていって、喧嘩せずに、その場を丸く収めてくれたことがありました。僕は、相撲しか教えられへんけど、一緒に頑張ってやってきて、兄弟のように助け合える関係を築いてくれるのを見るのが嬉しい。それが、例え相撲をやめて社会人になっても、続いてくれれば、こんな嬉しいことはないんです。」

◆部員募集中 未来の力士誕生は遠くない
 浪速武道館では部員を募集中だ。興味のある人は一度武道館へ足を運んでみよう。練習は平日の夜、6時からだ。小・中学生ならいつ入部してもよいが、早い段階で入部する方が、相撲への習熟度がより高いという。
「相撲は、相手に身体でぶつかっていく恐怖を飛ばすことが一番大事。ある程度、暑い、寒い、痛いをわかってしまってからだと経験値から怖さがでてきてしまう。小さい子の方が、こんなもんかと、慣れるのが早いんです。それを乗り越えれば、毎年一年ごとにレベル、力が上ってくるので、面白さと頑張らなあかんという気が出てくる。」
 相撲といえば、立派な体格をイメージするが、実は体格よりも足腰の強さと瞬発力が勝敗を分ける世界。体格による向き不向きは関係ないという。かつて、身長173cm、体重75kg以上とされていたプロの条件も、現在は身長167cm、体重67kg以上でテストを受けられるようになり、角界への門戸は確実に広くなっている。
 未来の力士を見に浪速武道館へ足を運ぶのもまた楽しみ方のひとつだろう。
「"江戸の横綱より近くの三段目"という諺がある。武道館を覘いてもらったときに、頑張って稽古つけてる力士を贔屓になってもらったら。プロに入った時に、前からこいつ知ってるわと自慢になる。そんな見方も面白いのとちゃいますか。」
あの時、武道館で必死に汗を流していた力士が、いつか、大歓声の中、堂堂と土俵入りを果たす。大銀杏が艶やかに光り、豪華絢爛な化粧廻しの上に、真白い横綱が揺れている―そんな日を想像する。ふと視線を仰げば、誇らしげに眺める朝井監督の姿がきっと見えるだろう。

(文:藤田あかり)


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